マルハナバチ国勢調査
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●送粉昆虫としてのマルハナバチの重要な性質

1)体温を一定に保つ

昆虫は変温動物なので、体を休めているときには体温が下がってしまいます。しかし活動し続けるためには、体温を高く、しかも一定に保たなくてはなりません。昼間活動する昆虫の多くは、休んでいるときには日光に当たることによって体温を維持しています。しかしマルハナバチはその代わりに、胸の筋肉を収縮させることで熱を発生させ、止まっているときでも体温を活動に適した状態に保つことができます。この性質は特に気温が低いときや、天候が優れない時に自由に活動する上で重要です。筋肉の収縮によって体温を高く保つ方法は、他のハナバチでも採用されていますが、マルハナバチはその上に体が大きく、全身が長い毛で覆われていて、体温を保つ上でさらに有利な体の構造を持っています。このためにマルハナバチは、他のハナバチが動けないような低い気温(5℃程度)でも活動が可能です。この性質によって、特に早春に花をつける植物や、寒冷な地域の植物にとって、マルハナバチは確実な送粉昆虫となります。

2)高い認識能力・記憶能力と定花性

マルハナバチは花の色や形を、正確に認識・識別する能力があることが、実験で確かめられています。そして花の色や形を、その花がどのくらいの蜜や花粉を持っているのかという情報と統合して記憶する能力を併せ持っています。これらの情報を元に、マルハナバチはそのときに最も効率よく餌が得られる花を、集中的に訪れます。この性質を定花性と呼びます。そのときマルハナバチに選ばれた花にとっては、花粉が他の種類の花に届いてしまって無駄になることが少ないという意味で、これはとてもありがたい性質です。その代わりマルハナバチに選ばれるためには、それに相応な餌を用意しておかなければなりません。

3)強い飛翔能力

マルハナバチは体重とほぼ同じ重さの蜜を積み、さらに体重の2割ほどの花粉を持って飛び回ることできます。一度巣から飛び立つと、その間にたくさんの花から餌を集めますので、より素早くたくさんの花で花粉のやりとりを仲立ちします。時に巣から数キロの所まで餌を採りに行ったり、さらには野宿をしなくては帰って来られないほどの遠くへ出かけることもありますので、遠く離れた花の間の花粉の受け渡しにも関わっています。マルハナバチの飛翔能力は、花に対する高い認識能力とあわせて花粉の受け渡しに強い威力を発揮します。

●マルハナバチの訪花習性

マルハナバチは、女王バチがめざめる春から、コロニーが解散する秋まで、いろいろな種類の花に訪れ、花粉や蜜を集めていきます。しかしでたらめに訪れる花を決めているわけではありません。マルハナバチには彼女なりのくせがあって、その時々に訪れる花を決めているのです。ここでは、マルハナバチが花を訪れるときのくせについて見てみましょう。

主選好と副選好

花に訪れているマルハナバチに、一個体一個体マークをつけて調べてみると、同じ個体が繰り返し同じ種類の花に訪れていることが多いことがわかります。マルハナバチは、花を探し始めた最初の頃は、いろいろな花にちょっとずつ訪れて「品定め」をしますが、餌が多い、自分の体のサイズにぴったりで餌が採りやすいなどの理由で、ある花が気に入ると、そこの花に繰り返し訪れるようになります。あるマルハナバチが主に訪れている花を、その個体の「主専攻」と呼びます。しかし、主専攻の花もいつまでも咲いている訳ではありません。主専攻の花が終わってしまったら、次の花を探さなければなりません。しかしまた最初から探しなおしていたのでは、無駄な時間を過ごしてしまうことになります。マルハナバチは主専攻を決めて、主にその花に訪れている時も、別の花にも足を運んで「調査」を繰り返しています。あるマルハナバチが訪れる主専攻以外の花を「副専攻」と呼びます。主専攻の花からもはや期待したほどの餌が採れなくなったとき、マルハナバチは副専攻の中の一番よい花を、新しい主専攻とします。こうして進む花の移り変わりに、マルハナバチはうまく対応して、効率よく餌を集めています。